大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(手ワ)956号 判決 1969年7月22日

原告 志吾呂金属株式会社

右代表者代表取締役 黒宮宏

右訴訟代理人弁護士 堀内稔久

被告 株式会社伊藤製作所

右代表者代表取締役 伊藤健太郎

右訴訟代理人弁護士 中村源造

主文

被告は、原告に対し、金四〇六万円、および内金二〇〇万円に対する昭和四三年一一月一五日から、内金二〇六万円に対する本判決正本送達の翌日から、各完済に至るまで六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。ただし、被告において金二〇〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

≪省略≫

理由

一、本件各手形が請求原因記載のように呈示されて支払拒絶になったことは当事者間に争いがない。甲第一ないし第三号証中、その形式内容からみて真正に成立したと認められる株式会社富士銀行東武練馬支店作成の付箋には、「盗難につき支払いいたしかねます」という記載があることが認められる。ところで、取引銀行から交付をうけている手形用紙を用いて振り出した手形について、振出人が手形面上に押捺した印影と同人が銀行に届出している印鑑の印影とが相違している場合に、支払銀行は付箋に「印鑑相違」と記載して支払拒絶をするという取扱いであることは当裁判所に顕著な事実である。ところで本件においては、甲第一ないし第三号証によると手形用紙は銀行交付の統一手形用紙であることが認められるうえ、前述のように支払拒絶の理由として「印鑑相違」という理由がついていないことが認められる。このことから、甲第一ないし第三号証の各約束手形上に押捺してある記名捺印が被告のものと同一のものであると推定され、このことからこれら約束手形には被告会社代表者が記名捺印したものと推定され、従ってほかに特段の反証のない以上甲第一ないし第三号証は真正に成立したものと認められる。そしてこれによると請求原因第一項記載のように被告が手形を振り出した事実が認められる。

二、前記甲第一ないし第三号証によると、請求原因第二項記載のとおりの、受取人欄の補充、日本信託銀行と王子信用金庫への裏書譲渡、これらからの受戻、(ロ)(ハ)の手形についてのその後の振出日の補充、の各事実が認められ、原告が当該手形たる甲第一ないし第三号証を書証として提出したという当裁判所に顕著な事実によると原告がこれを現に所持していることが認められる。

三、そうすると、被告は原告に対し、原告が受戻しのために支払った金額とこれに対する受戻の日以後の利息を支払う義務があることとなる。ただし(ロ)(ハ)の手形については、受戻の日には未だ振出日が補充されておらず、王子信用金庫は原告に対し遡求できないものであったのを原告が受戻したことになるので、これらの手形については、原告は振出日を補充したうえこれを被告の住所地においてあらためて催告することによって手形の所持人として手形の主債務者たる被告に対し手形金とこれに対する利息を請求できることになる。

四、よって、原告の本訴請求中、手形金と(イ)の手形の手形金については満期の日から、(ロ)(ハ)の手形の手形金についてはこの判決正本送達の翌日から、各完済に至るまで年六分の割合による金員の支払いを求める限度で正当として認容し、その余は失当として棄却し、民事訴訟第八九条、第九二条、第一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤清実)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例